小さな駅舎から乗り込んだ各駅列車は、民族衣装の人々でごったがえ。
中には、里帰りの苗族の女性もいて、晴れ着から美しい鈴音をときおりシャラシャラさせていました。
祖父母にぴったりはさまれて小さな王様みたいな苗族男の子。ちびちびと仲良く杯を交わしているじいさん達の乾杯音頭。自分の存在も列車の溢れる人いきれの一部となります。

向かいに座ったおじさんは、 土家族のお医者さん。私の潰れた声に驚いて薬をくれました。
中国は、土ぼこりがひどいせいか、風邪や咽薬のＣＭが多いです。
それ故？背広の内ポケットに薬を常備している人もこれまた多いのです。
彼も私用だったようで、胸にしまいこみました。

各駅停車は、乗客が少なくなるとどんどん端から車両を封鎖しに乗務員がやってきて、
他の車両に移るよう命じます。
せっかく座席を確保して、ヒマワリの種をかじっていると３度も移動勧告。
着いた頃には、闇夜にのまれ街の姿かたちがつかめません。
暗がりから逃げるように宿の明かりへ飛び込みました。

次の日、臨時の乗り合いバスでトン族の村へ。「三月三」があるはず....
この辺りは、苗族の集落が多いので村は、ポツンとありました。
坂道の途中にうっすらと小さな集落が広がり、更に民家に沿って曲がりくねった小路が下へ下へと続き
広場が見えてきました。
人は、まばらで、祭りの気配は、まるで感じられません。とうに昼時を過ぎています。
「資金難で祭りは、面白くないし、あるかどうかわからない」と言われてしまいました。
地元の人にそう言われるのは、一番心ともないです。

途方に暮れているとその日は、中学校に泊めてもらうことになりました。
私を快く招いてくれた湖南省出身の英語の先生水仙です。 齢は、21歳。
顔の輪郭には幼さがまだたしかに残っています。
彼女ら教師は、校舎の宿舎で生活し、集団生活を送っています。

私が案内された部屋は、一番端の水仙の部屋。私は、彼女の部屋に寝かせてもらうのだと知りました。
ベッドの側には、学校のテレビとＶＣＤプレイヤーがあるので、
子供達や先生がどやどや入ってきては、勧善懲悪ものに見入ってました。
私と水仙は、頭と足を逆にし仲良く就寝。

期待とは裏腹に朝から雨、雨、雨。
ここのの女性達は、祭り時に、苗族のような銀飾りを頭につけます。豊作を願い、苗に見立てて葱を手に
踊るとのこと。でも大切な銀の冠を雨にさらすわけにはいかないでしょう。
天候には、為す術もなし。

また次の日も雨。
先生達は、放課後も生徒達に囲まれ教室に飾り付けをしたり、古いポスターを修復したり、みんなから慕われているのがよくわかります。ここでは、教師と生徒というより、子供達のお兄さんのようでした。
大集団は一つの兄弟のよう。
飾りのついた刺繍の帽子を被っている子供を、見かけます。
すっかり汚れて よれよれになり、 また縫い合わせてと手をかけて
愛情を充分注がれ大きくなるでしょう。
祭りを見ることはできませんでしたが、小さな村のぬくもりがずっと続いてほしいと思いました。